クラウドファンディングワークショップでPBL (Project-based Learning)

私は英文科・英語学科の教員ではないので、学生には英語という言語について教えるという感覚はありません。それよりも、英語の使い方を覚えて、それをいろんな場面で活用してほしいと考えています。

英語の使い方、すなわち英語で受発信する方法を学んでもらおうと2015年から行なっているのがこの授業。当初は英語科目だったが、現在は「英語と日本語でクラウドファンディング」というタイトルで「実践科目」の1つの選択科目になっています。

その実践報告は(英語科目として行なっていた時のもの)日本アクティブ・ラーニング学会(jALs – Japan Active Learners Society)の学会誌「アクティブ・ラーニング研究-Vol.1」に掲載されているので、詳しくは以下をご参照ください。
大学英語授業におけるアクティブラーニング「クラウドファンディング体験ワークショップ」の実践報告(アクティブ・ラーニング研究 1 (1),141-149,2020)

授業の流れ

この授業では、受講生は自分のクラウドファンディングキャンペーンを考え、情報収集して具体的に企画を詰め、英語(と日本語)でプロモーションビデオと、キャンペーンページ(クラウドファンディングの詳細を説明するWebページ)を制作します。本当にクラウドファンディングに挑戦するのも、クラウドファンディングを疑似体験するのもOK。ただし半期13回(2019年度以前は15回)の授業で企画立案から実現まで持っていくのはかなり厳しいので、実際に挑戦する場合は授業終了後への”持ち越し”企画となります。ちなみに残念ながら今までクラウドファンディングに実際にチャレンジした企画はまだありません。

授業は、まずクラウドファンディングについて知り、様々なキャンペーン(成功しているもの、していないもの)を見て、その内容を評価するところからスタート。海外の(英語の)キャンペーンを中心に、日本のものもいろいろ見て、興味のあるキャンペーンについてレポートしたり、クラス全員でディスカッションしたりします。

そして、次は自分がやってみたいことを個別に企画し、全員が発表。それぞれの企画について意見交換しながら、チームを作って企画を具体的に考えていきます。もし一人で自分の企画に取り組みたい場合はそれもOKです。

この後は、成功したキャンペーンや、KickstarterのCreator Handbookなどを参考に、みんなに支援してもらえるクラウドファンディングキャンペーンとはどんなものか、毎回チームでディスカッションしながら、企画書を書き、ビデオのシナリオ(英語)・絵コンテを作り、最終的にはビデオとキャンペーンページを制作します。各チームが、進捗状況を随時クラスで発表。そこで得たフィードバックを反映させつつ、制作を進めます。

ビデオは毎年学内のスタジオでプレゼンテーション形式で撮影していましたが、コロナでオンライン授業となった2020年度は、Teamsのビデオ会議の録画システムなどを使って撮影したものを学生たちが編集して制作しました。

この授業で目指すこと。なぜ英語と日本語?

企画・プレゼンテーションは、Critical, Concrete and Creativeに

クラウドファンディングキャンペーンは支援者を集めることが目的なので、説得力がある内容で、説得力のあるプレゼンテーションをしなくてはなりません。そのために重要なのがこの3つだと考えています。

Critical (批評的)– 自分たちの企画内容を常に批評的に検証して、実現することに意味があるのか、企画がユニークで説得力のある内容になっているかを徹底的に考える、つまりcritical thinkingを実践します。また、他チームの中間発表もcriticalな視点で見て、具体的かつ建設的なフィードバックを行います。

Concrete (具体的)– 企画はとにかく具体的であることが大切。何かを作る、イベント等を行う、継続的な活動を行うなどどんなプロジェクトでも、潜在的支援者が成果物や活動をイメージできるように、具体的なことばとビジュアル等を活用して企画を説明します。ちなみに米国などの学校では、自分の意見を言って理由を明確に伝えられないと、”Why?”と問われ、その説明が具体的でなければ、”Be specific”と追及されます。そういう経験が少なく「具体的」が苦手な日本の学生たちにとってはとても重要な学びだと思っています。

Creative (創造的)– 企画そのものもですが、プレゼンテーションがクリエイティブでユニークであればさらに説得力が増します。自分たちの考えをどう表現するか、どういうしたらより印象に残り、よく伝わるかという工夫は、ビデオの作成にあたっては必要不可欠です。

幅広く情報収集し、情報を見極める力を持つ

具体的で説得力のある企画を作るには、幅広く情報収集することは必須で、日本語の情報だけではもちろん足りません。ネット上の60%の情報は英語ということもあるし、どのような企画であってもグローバルな視点で考えることは必要だからです。

ネット上の英語の情報を検索するには、キーワードの選び方、組み合わせ方はとても重要なので、企画に関連する英語表現はしっかり確認しておきます。検索して見つけたサイトなどの情報は、自動翻訳もうまく使いながら、内容を検証しつつ読み解く力をつけていきます。

英語でプレゼンテーションをすることの意味

企画の内容に関わらず、プロモーションビデオは英語で話すことにしています。その理由は、

  • 英語のスピーチの基本構成を覚えて、論理的で説得力のあるプレゼンテーションを行う
  • シンプルで簡潔な英語で、伝えたいことを自分の言葉で伝える

これができるようになって欲しいからです。

米国の大学のスピーチの授業(多くの大学で1年生の必修科目)では、informative, descriptive, demonstration, persuasive speeches等々さまざまなタイプのスピーチを学びます。クラウドファンディングのプロモーションビデオは、人々を説得して支援してもらうために作るので、persuasive speechの一種と言えます。ビデオは最終的には構成も演出も自由ですが、persuasive speechの重要なポイントを押さえた上で作ってもらいます。

ウェブサイトにキャンペーンページも作るので、ビデオでは大事なポイントのみ簡潔に英語で話します。英語は、日本語を英語に訳すのではなく、なるべく言いたいことを自分の知っている英語で話すことを重視しています。もちろん、スピーチで使う基本表現も授業で学びますが、それでも、学生たちは「翻訳ソフト」に頼りがちなので、伝わりにくい表現が出てきたら、繰り返し質問してわかりやすい表現に書き直していきます。そして、話す時にはどんなことばを強調するか、抑揚をどうつけるか、どこで区切るとわかりやすく伝わるかなどを確認しながら練習して、プロモーションビデオを作成します。

この授業を通じて、学生たちには深く批評的に考え、論理的でわかりやすい表現で自分の考えを伝えることの大切さを知って欲しいと思っています。

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